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桜の花びらが道路に敷きつめられ、時折風の音とともにクルクルと舞い上がる。枝には鮮やかな黄緑色をした新葉が芽吹いている。たったの一週間で僕の人生は激しく動いた。人が死ぬというショッキングな事変にもかかわらず、僕には悲しみのショックはない。むしろこういったドラマのような出来事が実際に身の周りで起こるというショック、興味でいっぱいだ。不謹慎だとは思うが僕の彼女が死んだわけではない。人間なんてそんなもんだ。「誰かが死にました」「はい、そうですか」その繰り返しの感情。悲しみと好奇心は紙一重。
 理恵子が生きているという確証もないのだが、とりあえず僕の理恵子は生きている。そう思うことにした。だったら理恵子は何処へ消えてしまったのか。失ってからわかる大切なことがある、とよく言うが、まさにその通りで僕もこの一週間で色々なことに気づいた。彼女にはまだまだ伝えたいことがたくさんある。
 久しぶりの千川通りは、僕の背中を押すように猛スピードで景色を流していく。僕の脳裏は理恵子と出会った頃へと逆流していく。あらゆる部分で接点を探しながら歩いたせいか警察署にはあっという間に着いた。再び正門の前に立つ。守衛が二人、まるで人形のように身動きせず立っている。前を通り過ぎると目だけが追ってきて気持ち悪い。中へ入りキョロキョロしているとすぐ若い署員に声をかけられた。
「金山さん、待ってましたよ」振り返ると中澤と組んでいる村上という刑事がにこやかな表情で立っている。
「あ、どうも」
「上です」彼は人差し指を上に向けて促した。
 心なしか周りにいる他の署員達の目が気になる。どうやら容疑者としての線は消えていないようだ。そのことに気づいたのか村上が「警察はそんなもんですから」と笑いながら言った。
 ひんやりとした階段を上がってすぐ左にある部屋に通されると、窓からの光だけで薄暗い中、背を向けて立っている男が目に入った。
「中澤さん、到着です」
 ゆっくりと男が振り返る。来るぞ、来るぞ、変なドキドキ感が一気に全身を高揚させる。頭の中ではお笑い番組のオープニング曲が流れ、期待感に膨らむ自分。
「待ってたよ」
 男と目があった瞬間、いけないとわかっていながら思わず吹き出してしまった。やっぱり似ている。パンパカパーンという感じだ。
「申し訳ございません。私、取り乱してしまいました」ついつい詫びる言葉も有名芸人の口調になってしまい、余計に場の雰囲気を濁してしまった。
「整形しようかな」と、中澤から意外な言葉が出た。彼なりに精一杯の自虐的ジョークだったのだろうが、当然笑いは起こらない。
「大丈夫ですよ」今度は村上が気の利かない言葉を返した。
「何がだ」
「いや、その・・・」
「もういい」
「すいません」
 村上が謝ると中澤は軽くため息をし、表情を変えて話を切り出した。
「吉田理恵子は生きている?」
「はい。生きています」僕も表情を変えて答えた。
「説明してくれ」
「ニュースやワイドショーで流れている理恵子の写真。あれ、理恵子じゃないんです」
「被害者は確かに吉田理恵子だ」
「証拠はあるんですか?」
「警察をなめちゃいかんよ」中澤はちょっとムッとした口調で僕を睨みつけた。だけど僕は引くわけにはいかなかった。理恵子を取り戻したい気持ち、そして同時に自分の容疑を晴らしたいという当たり前の感情が前へ前へと動かしていく。
「DNA鑑定はしましたか?」
「あのな、DNA鑑定というものは最終手段だ。今回は必要ない」
「でも、もしかすると」反論しようとすると、村上が制止するように口をはさんできた。
「金山さん、遺体は顔や身体がはっきりと判る状態で発見されたんです。家族や友人、学校関係者からの確認がとれてる。殺されたのは吉田理恵子だ」
「でも、あの写真は理恵子じゃない」
「本当に違うんだな」中澤が重い声で念を押すように言った。
「嘘はついていない」
「じゃあ、考えられることは三つだ」中澤は妥協したのか何か思いついたのかわからない表情で話し始めた。

○1 <2006.7.29up>

○2 <2006.8.29up>

○3 <2006.10.6up>

○4 <2007.2.6up>

●5 <2007.2.20up>

○6 <2007.2.26up>


<著作権は、作者 山口信乃介に属しています。無断でのコピー・転用などその他一切の類似行為を禁じます>

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